広島高等裁判所岡山支部 昭和26年(う)291号 判決
職権を以つて判断するに、原判決が岡山地方裁判所裁判官牛尾守三によつて作成せられ同裁判官によつて言渡されたことは、同判決書末尾の署名押印竝びに第三回公判調書の記載によつて明らかである。しかるに調書の内容日附の記載から、右判決の基礎となつているものと認められる昭和二十六年二月十五日の第一回公判期日の調書を検すると、その末尾には右裁判官牛尾守三の署名押印はあるが、冒頭における公判裁判所構成の裁判官の記載は裁判官村木友市となつて居つて、同期日の公判審理は裁判官村木友市によつて行はれたことになつているのである。おもうに公判調書は、その公判に列席関与した裁判所書記官によつて作成せられ、その公判に列席審理を行つた合議裁判所の裁判長またはは単独裁判所の裁判官の署名押印を受けることによつてはじめて、その成立、内容の真実が保証せられるものであつて、刑事訴訟規則第四十六条第一項の要求する方式もまた、この趣旨に出でたものに外ならない。従つて公判調書中公判に列席し審理した裁判官の記載を全然欠ぐ場合の如きは、刑事訴訟法第五十二条の文意に照し、その調書末尾の署名押印、または他の資料によつて、公判の審理を行つた裁判官の何入であるかを補充認定することもできるものと解せられるが、本件調書の如く公判審理を行つた裁判官とその調書に署名押印した裁判官とが調書の記載上明らかに別人である場合の如きは、そのいずれをも反証を以つて争う余地なく、公判審理を行はない裁判官によつて署名押印せられた、刑事訴訟規則第四十六条違反の無効の調書と認めざるを得ないものである。さすれば本件においては、原判決の基礎となつたと認められる前記公判期日における訴訟手続が適法に履踐せられたか否かを証明する資料を欠除するに至るのみならず、また公判の審理をしなかつた裁判官が判決した違法も存するものと認めざるを得ないのであつて、右各法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れない。